「彦根のバカ市長」訴訟とWikipedia

2007年7月20日 (金)

「彦根のバカ市長」記事を書いた週刊新潮が当の市長から名誉毀損で訴えられていた裁判の判決が昨日(7月19日)あった。

この訴訟は、Wikipediaの彦根市の「行政」カテゴリー記事によれば次のとおりである。

# 市長:獅山向洋
# 2006年10月25日に市職員に対する新処分基準を発表、11月1日に導入。飲酒運転で人身事故を起こした場合原則懲戒免職とするなど厳罰化が図られる一方、獅山市長が憲法38条(何人も、自己に不利益な供述を強要されない)を根拠に「飲酒運転の報告義務は憲法に違反する」とし市への報告義務を削除した。このため倫理観や実効性への疑問などから各方面に波紋を広げ、11月24日までに市役所に電話や電子メールでの問い合わせが473件あり、うち9割以上が批判または批判的意見であった。なお同市長は批判に対し、滋賀九条の会呼びかけ人、弁護士、元検事であることからか「憲法に従ったものが社会常識」「市民には憲法感覚を磨いてほしい」等「間違ったことを言っているとは思わない」「法律論を言っているだけ」という立場である。
# 週刊新潮が11月9日号において、上記の件を批判した上で「報告義務付けは憲法違反と言った彦根のバカ市長」と題した記事を書いた。この記事に対し市長は「自分が『バカ』だという事実はない。関西人なので『バカ』は『アホ』よりも名誉棄損の程度が著しい」と語り、名誉毀損として2,200万円の慰謝料と、中吊り広告上での謝罪を求める損害賠償請求訴訟を起こした。

そもそも市長の論理には無理があると思う。飲酒による人身事故を起こした市職員が市へその報告義務はない、とするのは「憲法38条(何人も、自己に不利益な供述を強要されない)」の解釈の乱用と思う。もし憲法38条を全面に出せば、履歴書に自分に不利なことを書く必要が無い、ということになってしまう。この条文は市民の権利を守るために極めて重要とは思うが、拡大解釈は返ってこの条文の価値を下げてしまう。

それはともかく、市長に対し「バカ」とは週刊新潮も下品とは思うが、批判に対し名誉毀損で訴える市長も過剰反応と思う。大津地裁の判決は、朝日新聞の記事「バカ市長」記事、甘受すべき批判 彦根市長の訴え棄却によれば次のとおりである。

判決は、「彦根のバカ市長」の見出しについて「侮蔑(ぶべつ)的で品を欠く表現」としたが、「地方公共団体の首長の公人としての発言や行動に対する批判、論評は、前提となる事実が真実である限り、原則として自由」と述べ、記事に違法性はないとした。

 また、当時、公務員の飲酒事故が全国的に問題化し、厳罰化を求める世論が高まっていたことを踏まえ、「(厳罰化に)あえて反対意見を述べ、厳しい批判にさらされるのはやむを得ない」と指摘した。

市長は公人であり公人が公人として発言した内容に対する批判は真実なら自由、としたこの判決は当然である。最近は当然が当然でない判決も多いだけに喜ばしい。ちなみに私は公人に対する批判が自由、としたこの判決を支持しているのであって、極右の週刊新潮の側には立っていないことは明記しておく。

直前の行で「公人が公人として発言」と書いたが、公人の公の場の発言は当然公人としての発言である。発言がそうなら行動もそうだ。

世の中の保守政治家共は、「私人として靖国神社に参拝したから問題ない」などと非論理的なことをのたまう。議員という公人が靖国神社という極めて政治的な場に参拝する、という行為は当然公人としての行動であり、「私人として参拝」は有り得ない。公人たる政治家がマスコミの目に触れる行為はすべて公人としてのそれになる、という基本的ルールを無視し、都合の良いように公人・私人を使い分ける「バカ政治家」には強い憤りを覚える。それを指摘しないマスコミもおかしい。

さてこの記事の最初にWikipedia記事を引用した。実は現在はWikipediaの同じページの同じ項目の内容は変更されているのだ。現在のWikipediaの彦根市中の「行政」カテゴリー記事には次のように書かれている。

* 市長:獅山向洋
* 2006年10月25日に市職員に対する新処分基準を発表、11月1日に導入。飲酒運転で人身事故を起こした場合原則懲戒免職とするなど厳罰化が図られる一方、獅山市長が憲法38条(何人も、自己に不利益な供述を強要されない)を根拠に「飲酒運転の報告義務は憲法に違反する」とし市への報告義務を削除した。しかし、倫理観や実効性への疑問等から11月24日までに市役所に対して電話や電子メールでの問い合わせが473件あり、うち9割以上が批判または批判的意見であった。

なんと、現在は「バカ市長」の記述が消えている。先の引用はGoogleの今年6月30日、つまり20日前のキャッシュである。キャッシュの記事と現在の記事では筆者が異なるか方針変更のように思う。「バカ市長」とWikipediaが揶揄したわけではないが現在の筆者はその表現を不穏当と考えたのか。このあたり、Wikipediaの編集方針の変動が感じられ面白い。Wikipediaは果たして「衆人の叡智」か「衆愚の知恵」か。もっと政治的なテーマで編集方針の変動を検証してみたい。

(ちなみにこの市長さん、判決を不服として上告するらしい。)

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