カテゴリー:コンサート

武久源造/ジルバーマンモデルのフォルテピアノ

2009年8月24日 (月)

昨日、次のコンサートを聴いた。

2009年8月23日(日)
[タイトル]
本郷教会サマーコンサート2009
オール・バッハ・プログラム~フォルテ・ピアノ[ジルバーマン・モデル]と共に

[曲目]
J.S.バッハ:
(1)詩篇第51篇 <至高なる者よ、わが罪を取り除きたまえ> BWV1083
 (ペルゴレージ作曲《スターバト・マーテル》より J.S.バッハ翻案・編曲)
(2)鍵盤と2本のリコーダーのためのコンチェルト ヘ長調 BWV1057
(3)シャコンヌ BWV1008より (武久源造編曲)
(4)モテット <すべての異教徒よ、主をほめよ> BWV230

[会場]
日本キリスト教団 本郷教会礼拝堂(東京・上荻)

[出演]
フォルテ・ピアノ 武久源造
ソプラノ 今村ゆかり/柴田圭子
アルト 羽鳥典子/淡野弓子/影山照子
器楽:ユビキタス・バッハ
リコーダー 淡野太郎/小俣達男
合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
指揮 淡野太郎

この団体の演奏は1年に1回程度聴いている。昨年もこのブログに演奏会の感想「J.S.バッハ/カンタータ第42番を聞いて」を書いた。

さて演奏について。
(1)はペルゴレージ作曲《スターバト・マーテル》をバッハが編曲し言葉も変更した曲。バッハの編曲は、ヴィオラが追加されただけであとはそれほど変更はないようだ。演奏は、残念ながら良くなかった。極めて雑然とし、音楽の方向がまったくはっきりしない。指揮の淡野太郎氏はペルゴレージとバッハの違いを明確にするつもりか、低音のチェロ、コントラバス、ファゴットを強めに出していたが、これは強すぎて鈍重な響きになっていた。声楽ソロも、アルト影山氏の宗教曲には似つかわしくない地声には参った。オーケストラも精度が悪く、出だしの不一致が散見。またヴァイオリン二本のソロも、音程が合わないうえ二人の表現がまったく違う。合唱も雑然。唯一の救いは、アルトの羽鳥氏の安定したソロで、彼女の声の箇所はほっとして聴いていた。

(2)の協奏曲は、ブランデンブルグ協奏曲第4番と同じ曲で、ブランデンのヴァイオリンソロの代わりに鍵盤ソロの曲。通常はチェンバロソロだが、今回は著名な鍵盤奏者である武久源造氏がジルバーマンモデルのフォルテピアノで演奏した。フォルテピアノはもう少し時代が後の楽器のように思うがそうではなく、バッハはこのジルバーマンのフォルテピアノを演奏しジルバーマンに改良を求めていたそうだ。今回の楽器はそのコピー楽器で演奏し、指揮も武久氏だった。

曲の冒頭から度肝を抜かれた。強烈な主張をもった演奏だ。オーケストラも(1)でレベルの低い演奏をした団体とはとても思えない。武久氏の変幻自在の音楽について行き、あるときはぶつかり、非常にすばらしい演奏だった。武久氏の解説によると、このフォルテピアノは、音色ストップは、ピアノとチェンバロの2ストップ。そしておのおの1本弦と2本弦で音量差を付けられるので、2×2の計4つの色を持った楽器とか。ところが武久氏の音色の変化は無限と言って良い。武久氏も、自分の表現意欲に応えられる楽器を初めて見つけた、といった感じで嬉々として演奏。特に1楽章は秀逸だった。3楽章はオケのレベルからは速すぎたが、充分な音楽的エネルギーを感じた。

ただ、リコーダー2本は音量バランス的に若干弱かった。フォルテピアノと弦があれだけ意欲的な演奏をすると、結果としてリコーダーが音量的に埋もれるのは止むを得ないだろう。その音量不足を補うため、1stリコーダーの淡野氏は若干オーバーブロー気味ではあったが大きな動作で音楽をアピールしていた。このあたりは淡野氏の声楽家としての面目躍如たるものがある。2ndリコーダーは端正にきちんと音楽をまとめていた。

次はフォルテピアノのソロで(3)シャコンヌ。この曲の編曲は様々の作曲家が行っている。一番有名なのはブゾーニの編曲だが、私はあの編曲が大嫌い。なので、武久氏の編曲にも大して期待していなかった。が実際に聴くと、すばらしいなんてものではなかった。このフォルテピアノの音色の多様性を最大限に生かした編曲・演奏。中間部でのppの音色の変化には思わず鳥肌。この編曲は、このフォルテピアノがあって初めて生きる編曲だと思う。

これまでの武久氏の2曲で音楽を充分に堪能した私としては、最後の(4)モテットには全然期待していなかった。しかし、これは良かった。1曲目と同じ合唱団とは思えない出来。通奏低音のファゴットも秀逸だった。

この演奏会を聴いて、武久源造という音楽家の「凄み」を感じた。すばらしさ、というより凄み、それも狂気との境目にあるような。その武久氏と比べるのは酷だが、この団体常任指揮者の淡野太郎氏は非常な研鑽が必要、と感じた。

ちなみにこのフォルテピアノの調律は、あまり一般的ではない「バッハ調律」とか。ちょっと調べたが、Johann Sebastian Bach’s tuningのようだ。

カンタータ76番

2009年2月14日 (土)

先日、バロックオーボエの三宮正満門下生発表会を聞きに行った。20人近いバロックオーボエ吹きが一堂に会する、というのは驚きだった。その発表会のテーマはバッハのカンタータで、そのオーボエオブリガートソロをアルト、またはソプラノの独唱とチェンバロ伴奏とともに演奏する、という贅沢な催し。その詳細についてはネット上のブログに記事があると思うので、私は別な内容を書く。

演奏されたカンタータの中で、76番のシンフォニアを3人もの人が演奏した。これはオーボエダモーレの曲だ。演奏はもちろんバロック・オーボエダモーレ。この曲は私には思い出がある。まだ私が高校時代、カンタータのLP(まだCDは無かった頃の話)をドイツから取り寄せた。KANTATEというカンタータ専門レーベル。それがこの76番だ。演奏は、当時はもちろんモダン楽器で、ドイツ・バッハ・ゾリステン。オーボエ・指揮はヴィンシャーマンだ。そして、中の解説を見て驚いたのは、セカンドオーボエが日本人だったのだ。それは岩崎勇さん。岩崎さんは京都市立芸大の教授として長らく教鞭を取られたかた。昨年10月に故郷の熊本で演奏中に亡くなられたことを思い出した。ネットで調べたところ享年77歳。その歳まで現役オーボエ吹きということは驚異だ。今のバッハ演奏は日本においても古楽器が主流だ。しかし、そうなるためにはモダン楽器のバッハオーボエ吹きの先達がいたことに想いを寄せるべきだ。古楽器を聞きながらそのようなことを考えていた。

J.S.バッハ/カンタータ第42番を聞いて

2008年5月8日 (木)

約1ヶ月前になるが、次の演奏会を聞いた。

Soli Deo Gloria<賛美と祈りの夕べ> Vol.237
2008年4月5日(土)
日本キリスト教団 本郷教会礼拝堂(東京・上荻)

[曲目]
J.S.バッハ カンタータ42<この同じサバト(安息日)の夕べ>
F.メンデルスゾーン<讃歌>ソプラノソロ 柴田圭子
H.ディストラー<主なるキリストは甦られた>

指揮 淡野太郎/淡野弓子

[声楽ソロ]
ソプラノ 今村ゆかり/柴田圭子
アルト  羽鳥典子
テノール 星野正人
バリトン 淡野太郎

[オーケストラ]
ユビキタス・バッハ

[合唱]
ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
メンデルスゾーン・コーア

この団体の演奏を聞くのは約10ヶ月ぶりで、そのときの感想はこのブログの記事で書いた。その記事の最後に、次のように締めくくった。

この団体、今後も地道に宗教音楽活動を続けてゆくと思う。また半年・一年後に聴いてみたい。そのときも音楽はライプチヒスタイルのままか、または古楽器演奏的要素が加味されるか、興味のあるところである。

今回の演奏、古楽器的演奏云々の問題の前に、精度が低かった。つまり、アンサンブルがあまり良くないため音楽どころではなかった。特に、最初のシンフォニアと3曲目アリアで二番オーボエが足を引っ張っていたように思う。3曲目アリアは、ひとつの旋律を分割して1,2番オーボエが交互に演奏するので、難しいことは想像できる。が、もう少し気の合った演奏をしてもらいたかった。

声楽ソロでは、テノールの星野氏が良かった。彼はアマチュアだと思うが、ハイトーンをあれだけ楽々出せるのはすばらしい。私は一応合唱経験があるがハイトーンの出ないテノールだったので特にそう思うのかもしれない。

演奏された3曲の中では、H.ディストラー<主なるキリストは甦られた>が一番良かった。ディストラーは現代作曲家なのに、極めて古典的でひたすら祈りの音楽だ。それを合唱が心を込めて歌っていたように思う。

この団体、また1年後くらいに聞いてみたい。そのとき、もっと演奏の精度が上がっていることを期待したい。

「9月に響く90人の第9」を聴いて

2007年9月3日 (月)

約1ヶ月前にこのブログの記事演奏会案内/ベートーヴェン・第9で紹介したコンサートを聴いた。

「9月に響く90人の第9」
【日時】
9月2日(日)15時開演

【会場】
紀尾井ホール

【曲目】
ミサ・ソレムニス ニ長調 op.123より「キリエ」
ベートーヴェン:交響曲9番 ニ短調 op.125 「合唱付」

【演奏】
坂本徹(指揮)
小濱妙美(Sop)/永田直美(Mez)/池本和憲(Ten)/長谷川寛(Bar)
ライジング・サン・オーケストラ&クワイア

感想は、一言で言うと「期待外れ」だった。

先ず、オーケストラの精度が低い。2楽章で弦と管がずれたところなど、練習不足を感じさせる。また音の出だしがきちんと合っていない箇所も散見。古楽器も演奏する奏者が多いオーケストラのはずだが、古楽器奏者がこのようなことに無神経のはずはないので、モダン楽器のみ演奏する奏者が多かったのかもしれない。

それから、コンサートマスターより先に飛び出して弾く奏者がいた。これはオーケストラでは禁句のはずだ。寄せ集めオケの欠点が露呈、という感じだ。

また、古楽器奏者が多ければ音の減衰がもっと多用されたと思うが、そうではなかった。古楽器オケ的なすっきりした第9を期待していたのだが、そうではなかった。

ただ、オケ50人、合唱35人と小規模のうえ、金管楽器はナチュラル楽器のため、オーケストラの音量はそれほど大きくない。合唱も声を張り上げる必要はなく楽に歌っていたように思う。ただ合唱はあと10人ほど多い方がオケとのバランスは取れていたと思う。

それに引き換え、声楽ソロ4人は1000人の第9、またはベルディのオペラだった。よく響く声は素晴らしいのだが、場違いな音量とあまりにも深いヴィブラートには辟易した。指揮の坂本氏が主宰しているモーツァルト・アカデミー・トウキョウ(MAT)の声楽陣はヴィブラートはかなり控えめで清楚だが、その全く逆。これがテレビ放送ならすぐにスイッチを切ってしまうヴィブラートの深さと肉厚の声質だった。

室内オケで古典的・古楽的なベートーヴェン、が指揮の坂本氏の意図と思っていたが、出てきた音楽はそうではなかった。結局のところ坂本氏がどのような音楽を目指したのか全くわからなかった。

けなしてばかりだが良いところもあった。ホルンセクションは素晴らしかった。ナチュラルホルンで超難しいソロを完璧に吹いた下田太郎氏には拍手。また合唱もレベルは高かった。

この団体が今後も存続するのなら、古楽器奏者のみで構成されるオーケストラ、古楽唱法をマスターしたソリストで、出直し公演を期待したい。

演奏会案内/ベートーヴェン・第9

2007年7月28日 (土)

知人が出演する下記コンサート、話を聞くと面白そうな演奏会なので紹介する。

「9月に響く90人の第9」
【日時】
9月2日(日)15時開演

【会場】
紀尾井ホール

【曲目】
ベートーヴェン:交響曲9番 ニ短調 op.125 「合唱付」
ミサ・ソレムニス ニ長調 op.123より「キリエ」

【演奏】
坂本徹(指揮)
小濱妙美(Sop)/永田直美(Mez)/池本和憲(Ten)/長谷川寛(Bar)
ライジング・サン・オーケストラ&クワイア

【問合せ】沢井事務所 office-sawai@mbn.nifty.com

「9月に響く90人の第9」と、”9”を強調した演奏会だ。チラシによれば、

指揮者1人、ソリスト4人、合唱34人、オーケストラ50人、プロデューサー1人、計90人

とある。チラシによれば、会場のキャパを考慮するとこのサイズが適切らしい。これは初演のときよりは小さな編成とか。

この演奏会の一番の特徴は、チラシには明確には書かれていないが、「出演者のほとんどは古楽器も演奏するプレーヤー」ということだ。

指揮の坂本氏は、古典時代のクラリネットであるクラシカル・クラリネット奏者として著名であるが、最近は指揮がメイン活動のようで、モーツァルトを当時の楽器(クラシカル楽器)で演奏するモーツァルト・アカデミー・トウキョウ(MAT)を組織し指揮している。

そのような坂本氏が指揮する第9なので、通常のフルオーケストラによる第9とはかなり異なる音楽であることが予想できる。坂本氏の振る音楽を何度か聴いたことがあるが、そのスタイルは、音の減衰を多用して各声部をクリアにした演奏だ。そして今回のオーケストラ・合唱の母体は坂本氏の音楽を理解している上記モーツァルト・アカデミー・トウキョウとのことなので、今回の第9は紛れもなくその「坂本スタイル」の音楽だろう。

ただチラシによれば、使用楽器はクラシカル楽器ではなく現代楽器とのこと。しかし金管楽器だけは当時のクラシカル楽器を使用するようだ。大半は現代楽器だが音や音楽のスタイルはほとんどクラシカル楽器による第9となるはずだ。

チラシには全出演者の名前が掲載されている。その中で、オーケストラ中の主な古楽器奏者は次のとおり。

ヴァイオリン:大西律子(Leader)、天野寿彦、石川和彦、廣海史帆
チェロ:武澤秀平
フルート:菊池香苗
オーボエ:江崎浩司
ファゴット:岡本正之、鈴木禎、永谷陽子
ホルン:下田太郎、大森啓史
オルガン:渡部聡

フルート、オーボエは現代楽器だろうが、フラウト・トラヴェルソ奏者の菊池香苗氏、リコーダー・バロックオーボエ・バロックファゴット奏者の江崎浩司氏がモダン楽器をどう演奏するのか興味深い。またファゴット3人は名手揃い。

それにしても、古楽器奏者で現代楽器による演奏とは少々半端、どうせならクラシカル楽器で聴きたい、との感を持つ。しかしこの演奏会に出演する知人の話では、日本ではクラシカル楽器で第9は演奏できないらしい。それは、コントラファゴットの問題。第4楽章で目立つコントラファゴットのクラシカル楽器は日本には存在しないとか。

とはいえ、音や音楽のスタイルは奏法も含めてクラシカルスタイルのはずだ。大変楽しみな演奏会である。

 

QLOOK ANALYTICS